カーボランダム制作現場見学記
カーボランダムとは? 初めて聞いた時、聞きなれない名称なので、いったいどのようなものだろうと思いました。組成としては、石英砂とコークスの混合物を高温で加熱して作った合成物質で硬度はダイヤモンドに次いで硬く、研磨剤や切削工具に使われているそうです。カーボランダムは商品名だそうですが、機械などを扱っていらっしゃる理工系の方々なら良くご存知の物質かもしれません。
用途によって、粒子の細かさは違うそうですが、このたびは、ちょうど黒い砂のようなものを使っていました。それをボンドと合わせてペースト状にして、アルミ板の上に模様の部分をパレットナイフで盛り上げるようにして版は作られました。木版などの場合、模様は板を彫ることによってできるくぼみですが、カーボランダム版画では、模様はレリーフのように平らな面からとび出した凹凸のある版になり、プレスで刷ると、その凹凸が紙に食い込み力強く荒々しい独特な表情が出るのです。
船 荒天をゆく (版の部分)
柚木沙弥郎はアトリエMMGで、今までリトグラフィ、モノタイプ、リノ・カット、ゴーフラージュ、謄写版など、様々な版画の技法による作品を制作することができました。主催していらっしゃった益田祐作様と出会っていなかったら、開かれることのなかった世界だと思います。今回、手がけることができたカーボランダム版画は、柚木が10年余り前、益田様の案内でフランスの工房を見学して以来ずっと憧れてきたものでした。益田様が33年続けられたMMGの活動を3月に停止される直前の最後の仕事として実現しました。
アトリエが閉まってしまう。もうこのような仕事を間近で見るチャンスがなくなる。そう思ったら居ても立ってもいられなくなって1日アトリエを訪れ、仕事を見学させていただきました。
益田様がこのたびの展覧会のために書いてくださった『夢見る手』の中にある「(作家が)技術者(印刷者)とインキまみれになって、一己の個性を超えた未知なる「物」を作り出してゆく。中略 分業ではない。共同作業なのだ。」という文章が実感できる光景を目の当たりにしました。
工房に入ると畳一畳分ほどの大きさのプレスがありました。19世紀にフランスで作られたものだそうで、堂々としていて見るからに頼もしそうな感じがしました。
版画を刷る人 いつも彼の協力があった
プレスの上では、刷り師の職人さんが版にインクをのせる作業をしていらっしゃいました。丹念にインクを付け、次は、白く残す部分をボロ布で時間をかけて丁寧に拭取ります。インクののせ方、余白部分の拭取り加減で作品の表情は変わります。一回ごとに全て違うのだから、次はどうなるのだろうと、本当にわくわくしてしまいました。柚木がアトリエで作品第一号を刷った時、おそらく、出来上がりはまったく予測不能だったはずです。プレスを通って、版から紙をはずす瞬間、どんなにどきどきしたか、きっと子どものように目を輝かせていたことでしょう。

インクをのせているところ 余分なインクを拭取っているところ

紙をのせフェルトをかぶせる スキージーをセットする

台がスライドしてスキージーの下を通る
操作をする木製のハンドル 刷り上り
次は、色版です。刷りあがった紙の上に透明なフィルムをのせ、フェルトペンで輪郭をなぞります。その上に希望の色を調合したインクをローラーでのせ、また、白く残す部分を丹念に拭取って先の刷りあがった紙をのせてプレスにかけて、色をつけるのです。

色版を作る 色版にインクをのせる
これらは、全て職人さんなくしては生まれません。
職人さんのさじ加減で、作品は、様々な表情を表していきます。作家が版を作って、職人さんがそれに命を吹き込む、そんな感じです。独りの孤独な仕事ではなく力を合わせて作り上げる「共同作業」。フランスでは、多くの画家がこのような工房に訪れ、一緒に作品を作り上げるということが盛んらしいのですが、日本では、それほど広まらなかったそうです。どうしてなのでしょう。
MMGが活動を停止されたということは、本当に残念なことです。このような活動が、もっともっと広まれば良いのに…。でも、柚木がMMG と出会えたことは、本当に幸運なことでした。このたびのカーボランダム版画展は、その締めくくりともなった記念すべき会なのです。
会期は、5月20日までです。どうぞ、この間にお時間がありましたら、ぜひ、この記念すべき仕事をご覧下さいませ。
※カーボランダムの組成については、本展のために益田氏が書いてくださった『夢見る手』を参照しました。
全文をお読みになりたければ、こちらをご覧ください。
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