CRAFT SPACE わのBLOG

パンケーキの思い出

2011年12月 8日 03:30

「パンケーキの思い出」

 

最近、フィンランドの童話を読んだ。

そのなかにとても食いしん坊な王様の話があった。その王様は、いつもコックが腕によりをかけたご馳走ばかり食べていた。が、ある日のこと、王様は何も美味しいと感じられなくなってしまう。「苺ジャムをかけたパンケーキすら」という記述があって、それが王様の病気(?)の深刻さを表している。

 

パンケーキ、日本ではおそらく食べるとしても一年に一度くらいなのではないだろうか。なので、王様がパンケーキを食べられなくなったとて、悪いけどそこまで同情はできない。一方のフィンランドではパンケーキといったら、一週間に一度は食べているのではないかしらというくらい人気がある。じつは通った大学の学食では、木曜日は必ずパンケーキと豆スープというメニューがあった。他にも2・3別メニューはあるのだが、見ていて大抵8割強の学生は迷うことなく豆スープとパンケーキのセットを選んでいた。しかも苺ジャムは自分でかけてよく、誰もがたっぷりとパンケーキにかけていた。

 

けれど、パンケーキがお店やレストランなどで食べるたまさかのご馳走という訳ではもちろんない。逆に、「誰も」が上手に作って食べる気楽な美味しいものという感じがした。ここで、なぜ「誰もが」と力説してしまうのかというと、それは遡ること数年前に実感してしまったことにある。少し昔話なので、お話のように紹介してみたい。

 

あるところにフィンランド人の男の子がいました。彼は学食が充実しているのをいいことに、いつもお昼は学食で、山のようにジャガイモをお皿に載せて食べていました。夕ご飯は、簡単にパンにチーズを挟むだけの簡単なものですませてしまうのが常でした。この男の子の作戦は、学食でがっちり食べておけば、夜に手の込んだものを作らなくていいということに他なりません。

 

しかしそんなある日のこと、彼のお姉さんが日本人の友達をつれて遊びにやってきました。夕食時になり、二人はお腹が空いた、と大合唱を始めてしまいます。困ったのは、男の子です。「僕、あんまり料理好きじゃないし、冷蔵庫にもそんなに食べ物ないよ」と心の中で思いました。でもこのままではいけないと、男の子は日本人の前に小麦粉・牛乳・卵をボーンとおきました。そして日本人の女の子は、パンケーキを作り始めました。が、どうもうまくいきません。小麦粉を入れすぎてダマになり、牛乳を入れすぎて生地はすっかり台無しに。それもその筈、子供の頃から便利なホットケーキミックスに慣れすぎていたのでしょう。フライパンで焼いても、生地はちっとも固まってもくれません。

 

見かねた男の子は、さも慣れた手つきで小麦粉を生地に加え、フライパンをびっくりするくらい熱く熱し、そこにトロリと生地を流し込みました。いい匂いがしてきます。結局男の子は見事なパンケーキをお皿に山のように作ってくれて、みんなで美味しく食べました。もちろん空っぽに近い冷蔵庫には、大きなビンに苺ジャムが入っていたので、それをたっぷりつけることも忘れないで。 チャンチャン。

 

 当時、驚いたのはあんなに料理嫌いだと思っていた男の子ですら、鉄でできたフライパンを持っていて、パンケーキを美味しく焼けるという事実だった。このことは、いかにパンケーキがフィンランドの食文化に深く根ざしているかを教えてくれた。なので、話は最初に戻るのだけど、王様がパンケーキすら美味しいと感じられない病気はフィンランドの人ならきっと「それは、大変!」と、心底心配してくれるものなのだと思った。

                        (永井涼子)

 


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